エリム教育研究所 / 教育論文を読む
研究で確かめられたことと、そこから考えられる実践のヒントを分けて紹介します。
一度できたら終わり?
単語カードをめくり、意味が言えたら、そのカードを山から外す。よくある勉強の仕方です。でも、一度正解したことと、一週間後にも思い出せることは同じでしょうか。今回は、覚えた単語をその後どう扱うかを比べた研究から、思い出す練習の役割を考えます。
読むことと取り出すこと
答えを見ればわかる状態と、答えを見ずに取り出せる状態には違いがあります。ここでいう検索練習は、インターネットで調べることではありません。頭の中の知識を、手がかりから思い出す練習です。まずは、この二つを分けて研究の方法を見ていきましょう。
何を調べた研究?
紹介するのは、カーピックとローディガーが二〇〇八年に発表した研究です。参加したのは、アメリカの大学生四十人。覚える材料は、スワヒリ語と英語の単語の組、四十対でした。学校の授業全体ではなく、比較的単純な単語対の記憶を調べた実験です。
比較したのは正解の後
実験では、単語対を見る学習と、意味を思い出すテストを交互に行いました。大切なのは、初めて正解した後の扱いを変えたことです。まだ覚えていない単語を最初から放置した比較ではありません。一度できた単語に、何を続けると後まで残るかが焦点でした。
四つの続け方
条件は四つです。正解後も、読むことと思い出すことを両方続ける。読むのをやめ、思い出すことだけ続ける。思い出すのをやめ、読むことだけ続ける。そして、正解したら両方やめる。この違いを使って、追加の学習と追加の検索の役割を比べました。
その場では覚えられた
学習とテストの期間を繰り返すうちに、どの条件でも、ほとんどの単語を一度は正解できるようになりました。学習中の累積到達度は、ほぼ同じでした。その場でできた単語の数だけを見ると、正解したカードを外す方法でも十分に思えるところです。
一週間後に違いが出る
ところが、一週間後にもう一度思い出すテストをすると、違いが現れました。正解後も検索を続けた二つの条件は、どちらも再生率がおよそ八十パーセントでした。読むことも続けた条件と、読むのはやめた条件で、後日の成績は近い値になったのです。
読むだけではどうだった?
一方、正解後は読むことだけを続けた条件の再生率は、三十六パーセントでした。正解後に両方をやめた条件は、三十三パーセントです。この課題では、一度正解した後に読む回数を重ねるだけでは、検索を続けた場合と同じ保持にはつながりませんでした。
数値の意味を確かめる
ここで示した数字は、一週間後のテストで思い出せた割合です。八十パーセント向上した、という意味ではありません。また、最初の二条件の約八十パーセントは、論文本文の概数です。細かな差を読み込まず、繰り返し検索したかどうかの違いに注目します。
思い出すことも学習
この結果が教えてくれるのは、テストは覚えた量を測るだけではなく、学習の一部にもなりうるということです。答えを見ずに取り出す機会が、その後の記憶に関係しました。ただし、ここでのテストは単語を答える課題です。大きな定期試験を増やせばよい、とは言えません。
読むことは不要なの?
では、最初から読まずに答えようとすればよいのでしょうか。そうではありません。この研究の比較は、初回正答後の追加練習についてです。初めに意味を知る機会はありました。知識を受け取る段階と、受け取った知識を取り出す段階は、対立するものではありません。
時間はそろっていない
もう一つ重要な注意があります。四つの条件は、学習やテストの総試行数、かかった時間が同じではありません。正解した項目を取り除けば、その後の課題は減ります。したがって、同じ十分を使ったときにどの方法が最も効率的かまで、この数字だけでは決められません。
対象を広げすぎない
参加者は大学生四十人で、材料は外国語の単語対でした。文章の深い理解や、複雑な問題の解き方、テストへの不安は直接調べていません。日本の小学生にも同じ割合の効果が出ると約束することはできません。使う場面では、学ぶ内容と負担の両方を見る必要があります。
ここからは実践の提案
ここからは、研究結果を手がかりにした実践の提案です。原著でそのまま試された授業ではありません。たとえば理科の学習なら、教科書を短く読んだ後、閉じて大切な言葉を一つ説明してみます。正確に言えたかを確かめ、後でもう一度戻る小さな流れを作ります。
オリジナル例で考える
独自の例として、水蒸気という言葉を考えましょう。説明を見ながら読む代わりに、いったん隠し、水蒸気はどんな状態の水かを短く答えます。文章をそのまま再現することが目的ではありません。言葉を手がかりに、必要な意味を取り出せるかを確かめる活動です。
誤りをそのままにしない
答えが出ないときは、長く困らせ続ける必要はありません。説明を開き、必要な部分を確認します。白く見える湯気と気体の水を混同したなら、その違いを確かめます。こうした答えの確認と誤りの修正は、教室で使うための提案であり、原実験の検索試行そのものにはありません。
正解カードにも戻る
一度答えられたカードにも、後で戻る枠を残しておきます。全部を同じ回数で繰り返す必要がある、という意味ではありません。覚えていない項目の学習も大切です。ただ、今日できたから二度と見ないと決めず、もう一度取り出す機会を作ることが、この研究からの着想です。
小さく低負担にする
家庭なら、勉強の終わりに二問だけ、ノートを閉じて答える方法が考えられます。授業なら、採点を目的としない短い確認にできます。間違いを責めず、何を学び直すかを見つける時間にします。問題数や実施間隔は、この実験が保証した万能の設定ではありません。
答え方は目的に合わせる
単語なら意味を答える。出来事の流れなら、順番を説明する。計算なら、どんな手順で始めるかを言う。こうした応用は考えられますが、今回の研究がすべてを検証したわけではありません。学習目標とずれた丸暗記にならないよう、何を思い出してほしいのかを先に決めます。
成果は後でも確かめる
練習した直後に答えられたかだけでなく、少し後にも確かめてみましょう。見るのは、できた問題の数だけではありません。どの言葉を混同したか、どんな手がかりで答えられたかも役立ちます。その記録をもとに、読み直す部分と、もう一度取り出す部分を調整できます。
二つの誤解を避ける
思い出す練習が役立ったからといって、説明を減らし、難しいテストを増やせばよいわけではありません。読んで理解する支えと、取り出す機会の両方が必要です。また、苦しさの大きさを効果の目印にはしません。子どもが取り組める量と、確かめ直せる環境を整えます。
一度の正解の、その先へ
今回の研究では、初めて正解した後も思い出す練習を続けた条件で、一週間後の単語の記憶がよく保たれていました。覚えたつもりを確かめるために、短く隠して答え、確かめる。その小さな一往復から始めてみるのはどうでしょうか。今日の正解と、後日の記憶を分けて見ていきましょう。
この研究を読むときの注意
- 小規模な大学生・単語対課題。概念理解や試験不安などを直接扱わない
- 初回正答後の再学習の比較であり、初めに読む必要がないという意味ではない
- 総試行数・所要時間は4条件で同じではない
ここで示した家庭・授業の例は、研究者がそのまま検証した手順ではなく、エリム教育研究所の提案例です。
参考資料
Karpicke, J. D., & Roediger, H. L., III (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.
一次資料の本文を読む(確認日:2026年10月18日)
出典の数値・図の位置:本文p.967、Fig.2周辺段落。参加人数はSupporting Online Material p.2
編集方針:教育論文の読み方と編集方針

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