エリム教育研究所 / 教育論文を読む
研究で確かめられたことと、そこから考えられる実践のヒントを分けて紹介します。
導入|わかった気がする授業
先生の説明がすっと頭に入って、「今日はよくわかった」と感じたことはありませんか。反対に、自分で問題を考える授業では、途中で迷って、「あまり理解できなかった」と感じることがあります。この二つの感覚は、授業の後に実際に解けることと、同じなのでしょうか。今日は、そのずれを調べた教育研究を紹介します。
導入|今回の問い
最初に、今日の結論です。学べたという実感と、確認問題で示される理解は、同じ方向に動くとは限りません。ただし、これは、説明をわかりにくくしたほうがよいという話ではありません。学習を振り返るときに、気持ちだけで判断せず、実際にできることも確かめよう、という話です。
研究|どんな論文か
取り上げるのは、デローリエらが二〇一九年に発表した研究です。舞台はアメリカのハーバード大学。初級の物理を学ぶ二つのコースで、合わせて百四十九人の大学生が参加しました。したがって、今回の結果は、まずはこの大学生たちの物理授業についての結果として読んでいきます。
研究|比べた二つの授業
研究者は、講師の説明を中心に進める授業と、学生が問題に取り組む時間を中心に進める授業を比べました。後者は、ただ自由に話し合うだけではありません。学生が少人数のグループで問題を考え、講師が質問や支援を行い、その後に解答を説明する、という授業です。
研究|内容をそろえる
大切なのは、二つの授業で扱う内容をそろえたことです。配付資料、問題、講師から示される解答は同じでした。説明中心の授業では、講師が解き方を示し、学生が聞いて書き込みます。取り組み中心の授業では、まず学生自身が解こうとしてから、同じ解答を受け取りました。
研究|順序だけで決めない
学生は無作為に二つのグループへ分けられました。そして、連続する二回の授業で、それぞれが両方の教え方を経験します。静力学の授業と流体の授業で、教え方を入れ替えたのです。もともとの得意不得意や、一人の先生の特徴だけで結果が決まらないよう、工夫されています。
測定|気持ちとテスト
授業の最後に、学生はその授業についてのアンケートに答えました。どのくらい学べたと感じたかなどを、五段階で評価します。その後、十二問の選択式確認テストを受けました。この研究では、学習の実感を尋ねることと、理解を問題で確かめることを、別々に行ったのです。
測定|今回測った範囲
ここでいう「実際の学び」は、何でもできる能力全体ではありません。その授業の直後に、研究で用意した問題にどう答えたかです。一年後まで覚えていたか、別の教科にも応用できたかを測ったわけではありません。研究の言葉を読むときは、何を測ってそう呼んだのかを確認することが大切です。
結果|逆方向に動いた
結果は、少し意外なものでした。学生自身が問題に取り組んだ授業では、確認テストの成績が高くなりました。ところが、学べたという実感は、説明を聞く授業のほうが高かったのです。「よく学べた気がする」と「その後に問題に答えられる」が、逆の方向に動いていました。
結果|数値の読み方
論文の分析では、取り組み中心の授業と説明中心の授業との差は、標準化した指標で、テストがプラス〇・四六、学習感がマイナス〇・五六でした。この数値は、正答率が四十六パーセント増えたという意味ではありません。異なる指標の差を、分析のために共通の尺度で示したものです。
解釈|感覚を否定しない
この結果から、学生の感想を無視してよいとは言えません。わかりやすさや安心感は、授業に参加し続けるうえでも大事です。ただ、満足したかどうかだけでは、理解の確認として十分でない場合がある。感想と確認問題を組み合わせることで、学習の状態をより丁寧に見られる、と考えられます。
解釈|迷いが生む印象
自分で考えると、まだ説明できないところや、使えない知識が見えてきます。そのため、すらすら聞けた授業よりも、うまく学べなかったように感じることがあります。著者らも、考える努力の感覚などに注目しています。ただし、どんな迷いや負担も学習に役立つ、ということまでは示していません。
注意|苦労させればよい?
問題を難しくして、長く困らせればよいのでしょうか。そうではありません。今回の授業には、取り組む課題だけでなく、講師の支援と解答の説明がありました。挑戦する機会と、その後に理解を整える機会が組み合わされています。負担の大きさだけを、この研究の成果として取り出さないようにしましょう。
注意|説明は必要ない?
また、講義や説明が不要だと結論づけることもできません。学生が取り組んだ後には、講師が解答を説明しています。比べたのは、説明があるかないかではなく、説明を受け取る前に自分で問題に取り組むかどうかを中心とした授業の違いです。研究の比較条件を、そのまま保って理解することが重要です。
実践|ここからは提案
ここからは、この研究をヒントにした実践の提案です。原著と同じ授業を再現したものでも、効果が保証された手順でもありません。例えば、新しい内容を説明した後、すぐ次へ進む前に、一問だけ自分で考える時間を置いてみます。答えが出なくても、どこで止まったのかを言葉にしてみましょう。
実践|算数ならどうする
算数なら、解き方を見た後に、数字だけを変えた小さな問題で確かめます。できれば、答えだけでなく、「どうしてこの計算を選んだのか」も説明します。これは、今回の物理研究で直接試された算数指導ではありません。聞いた理解と、自分で使える理解を見分けるための、応用例です。
実践|間違いを手掛かりに
答えが違ったときは、学べていないと決めつける代わりに、どの部分を見直すかの手掛かりにします。問題の意味を取り違えたのか、使う知識が浮かばなかったのか、計算でつまずいたのか。その場所を確かめてから説明に戻ると、次に何を学ぶかが具体的になります。
実践|授業の受け止め方
教師や保護者が、最初に目的を伝えることも考えられます。「今は、すぐ答えが出るかだけを見る時間ではありません。どこまでわかっているかを見つける時間です」と説明するのです。自分で考える時間が、できないことを責めるためではないと伝わるよう、負担と支援を調整します。
限界|誰にでも同じか
最後に、研究の限界を押さえます。対象は一つの大学の学生で、教科は物理、介入は短い二回の授業でした。小学生や中学生、日本の教室、家庭学習でも同じ大きさの効果が出るとは限りません。学習者の経験や課題の難しさに合わせて、少しずつ試し、実際の反応を確かめる必要があります。
限界|長く残るかは別の問い
そして、直後にできたことが、長く使える知識になったかは別の問いです。実践で取り入れるなら、その日の確認だけでなく、後日もう一度説明できるかを見てもよいでしょう。ただし、それはこの研究の測定を超えた確認の工夫です。原著が示したことと、私たちが試したいことを分けて考えます。
まとめ|二つの物差し
今日の要点は三つです。学べた実感と、確認問題の結果は一致しないことがある。自分で取り組む授業には、挑戦だけでなく支援と説明がある。そして、この一つの研究を、どの子にも通用する万能の指導法にしないことです。気持ちとできること、二つの物差しを使って学習を見直してみましょう。
まとめ|次の学習で一問
次に「よくわかった」と思ったとき、短い一問を自分で解いたり、内容を自分の言葉で説明したりしてみてください。逆に、考えて迷ったときも、その感覚だけで学習の失敗と決めないこと。わかったつもりを責めるのではなく、確かめる機会を増やす。その小さな視点が、この研究から受け取れるヒントです。
この研究を読むときの注意
- 一大学・物理・短い介入で、長期保持や全教科を直接検証していない
- 苦労させれば学べる、わかりやすい説明が不要、という結果ではない
ここで示した家庭・授業の例は、研究者がそのまま検証した手順ではなく、エリム教育研究所の提案例です。
参考資料
Deslauriers, L., McCarty, L. S., Miller, K., Callaghan, K., & Kestin, G. (2019). Measuring actual learning versus feeling of learning in response to being actively engaged in the classroom. PNAS, 116(39), 19251–19257.
一次資料の本文を読む(確認日:2026年10月18日)
出典の数値・図の位置:Table 3 / Results
編集方針:教育論文の読み方と編集方針

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